医療安全よもやま話
第13回:目的を共有できるすばらしさ ー滝沢 牧子ー
2023-05-31
血液内科医として研究と臨床に従事した後、医療の質・安全学に取り組みはじめてから8年ほどになります。
皆さんはどのようなきっかけで本学会のホームページをご覧いただいているでしょうか。
この原稿は、米国で開催されたレジリエント・ヘルスケアの国際学会での発表を終え、時差ぼけと戦いつつ書いています。
4日間の白熱した英語での意見交換に参加し、多くの刺激を受けました。
レジリエント・ヘルスケアは、複雑適応系である医療をシステムとしてとらえ、日常業務を広い視野で見て複雑な現場の業務を理解し、患者さんにとっても医療者にとっても真に価値のある組織的安全対策を行うための安全科学です。
英国やオランダ政府の医療安全の指針に取り入れられているだけでなく原子力をはじめとした他産業でも熱心に研究されています。
私は、群馬大学の医療事故報道の5か月後、2015年4月に医療の質・安全管理部に2人目の医師として着任しました。
優れた「医学」の進歩を、患者さんにとっての優れた「医療」にするためには、医療の質と安全に立脚した実践の体制や組織文化が必須である、ということを痛感しました。
大学病院としての大きな改革改善が行われていく中で、現場の医療者一人一人が医療安全を「我が事」として考えるようになること、「患者参加型の医療」の重要性を現場に浸透させていくこと、に取り組んできました。
4月からは新しい環境で仕事に取り組んでいます。
医療に従事する私たちを取り巻く社会環境は常に変化していますし、医学の技術的進歩も加速しており、テクノロジーと人間のギャップは形をかえつつ常に存在しています。
医学を社会に適応させて「優れた医療」にするための医療の質安全学は今後ますます重要になってくると思います。
医療は個別性が高く、その核心部分を人間に依存しているという点で他産業と大きな違いがあります。
その実相を知る医療者をはじめ、他の学術領域の知見も取り入れつつ、患者さんにとって真に意義のある実践科学としてさらに発展していくためには、多くの人々の協働が必要です。
この学会がそのような協働のためのプラットフォームになることが期待されていると思います。
医療の素晴らしいところは、患者さんのために働くというプロフェッショナルとしての思いや目的を共有できることではないかと思っています。
いろいろな意見の対立やアプローチの違いがあっても、最終的には本学会の使命である「新しい医療のあり方、システムとして患者本位の医療の質と安全を保証するしくみを創り出す」。という目的を見失わずに協働していくことができればと思います。
埼玉医科大学 総合医療センター
医療安全管理学
滝沢牧子