お薬手帳の部屋
お薬手帳の部屋のスタートにあたって
飯島久子 医療の質・安全学会パートナーシッププログラム/薬剤師
この度の東日本大震災で被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。 お薬手帳は患者が服用している薬剤の履歴が書かれた手帳です。医師や薬剤師はお薬手帳の記録を見れば、患者が何という薬剤をいつからどのくらい服用しているのか、どこの診療所・病院に通院しているか、どこの薬局に行っているのか、といったことが分かるのです。
もちろん、患者自身も手帳を読むことによって、自分が処方された薬剤の名前や、どの薬剤をいつ何錠服用するのかなどを知ることができます。いつ病気になって通院したのかといった備忘録にもなります。 さらに、外出先で具合が悪くなった時や、災害がおこった時などにも、お薬手帳を提示することによって既往歴や普段服用している薬剤の情報が分かることから、救急時の治療の助けになると言われています。阪神淡路大震災の時、被災された人が普段飲んでいる薬剤の名前がわからず、医療者が苦労したことはお薬手帳が普及するきっかけとなっています。
さて、このお薬手帳が、医療者と患者のコミュニケーションツールとしての機能を十分に発揮するためには、1冊の手帳に薬剤の履歴が正しく記載されていることが必要になります。医師・薬剤師が患者の処方やその他患者に関する情報を記載することはもちろんですが、患者自身や家族が患者の体調や症状、薬剤を服用して気になったこと、ドラッグストアで購入して服用した薬剤のこと、あるいは医師・薬剤師への質問等の書き込みをすれば、大切な情報がさらに増えていきます。
ある病院で約100人の患者(年齢:37歳から98歳・平均77.9±10.4。性別:男23.7%・ 女76.3%)にお薬手帳についてアンケート調査をおこないました。 アンケート調査を実施する時に「ふだん飲んでいる薬の名前を覚えていますか?言うことができますか?」と質問しましたが、薬の名前を覚えていないため「血圧の薬を飲んでいます。」「朝、白い薬を飲んでいます。」「朝ご飯の後で、1 錠飲んでいます。」などと答える人が大半でした。患者が服用している薬剤を確認する際には、問診だけではなく、お薬手帳や薬剤情報紙のような記録されたもので確認することが必須です。特にお薬手帳は現在の服用歴だけでなく、過去からの履歴が分かるという点で薬剤情報紙より多くの情報を得ることができます。
お薬手帳を持っていると回答した患者への調査の結果、診療所・病院や薬局へ行く時にお薬手帳を持っていく人は 68.7%でした。さらに、医療機関へ行く時だけでなく、外出する時、例えばお買いものに行く時にもお薬手帳を持っていくと答えた人が38.6%いました。 次に、診療所や病院に行ったとき医療者にお薬手帳を見せるかどうかをたずねたところ、見せる人は 41.0%でした。一方、処方せんを持って薬局に行ったときにお薬手帳を見せる人は78.3 %でした。 患者は薬局では「お薬手帳を見せてください」と声をかけられていますが、診療所や病院ではあまり声をかけられていないと回答しています。患者に、ぜひ「お薬手帳を持っていますか?」と声をかけてください。そして、内容を確認することによって患者の服用薬剤や病歴、他科受診などがわかります。また、現在の患者の状態、処方薬、検査値などを手帳に書込むことによって、患者と医師、患者と薬剤師だけでなく、他科や他施設の医師と医師、他局の薬剤師と薬剤師といったコミュニケーションがお薬手帳を通じて生まれることになります。
今回の震災でも持病のある人が服用薬の具体的な名前を医療者に伝えることの大切さが報道されています。また、被災地を訪ねた看護師がノートを利用した手製の簡易カルテを作成し、情報の伝達に使用しているとの報道もありました。この簡易カルテと同じ役割がお薬手帳には備わっています。また、避難する時にお薬手帳を持ちだすことができ役に立った人も大勢いらっしゃると聞いています。お薬手帳が機能を発揮して活用されればと願っております。
被災地の皆様の一日も早い復興を応援しております。
(参考)飯島久子,山内慶太,高橋武則,共分散構造分析による「お薬手帳」に関する入院患者の意識と行動の分析.医療の質・安全学会誌,5(4),285-295, 2010
医療安全全国共同行動が作成した“お薬手帳の活用”を患者さんに呼びかけるチラシです。印刷して医療機関内などに掲示してください(20110406)