医療安全よもやま話
第22回:Empowerment~魔法のチカラ~ ー北村 温美ー
2024-04-05
エンパワメント~これは“魔法のチカラ”である。
私は腎臓内科を専門として診療を行ってきた。
慢性疾患である腎臓病においては、塩分制限などの食事管理を含めた「自己管理」ができるか否かで予後が変わる。
自己管理能力を身につけてもらうための言葉がけを試行錯誤しながら10年ほど経過して(ようやく)気づいたことがある。
それは「その人が守りたい生活」を慮った声かけであるかどうかが大切だということである。
「あの人は自己管理ができない」とレッテルを貼らずに、どんな毎日を過ごしているかを聞いてみる。
すると体重管理不良の透析患者さんは、奥さんと一緒にカフェで飲むコーヒーが楽しみであること、いくら言っても保湿剤を塗らない皮脂欠乏性湿疹の患者さんは、シャツに軟膏がベタベタつくと、奥さんが洗濯機に入れる前にシャツを手洗いしていて大変そうだから軟膏を塗らなくなったんだ、ということなど、背景が見えてくる。
それぞれの「大事にしていること」を尊重しながら一緒に解決策を考えることで、前向きな患者参加が実現する。
自分で考えた対応策を取り入れることで、自己管理しているという実感を得て、エンパワメントされる。
しかし日常臨床では、個々の生活を深掘りして聞く余裕もスキルも不足していることがしばしばある。
そこで私が頼りにしているのがピア・サポートだ。
腹膜透析患者同士がワールドカフェ形式で情報交換したり、透析導入前の患者さんと透析患者さんが外来で面談したりする場を設定している。
患者同士の会話は実に面白く、多くのことを教えてくれる。
そして患者同士が生き生きと、自分たちのチカラを発揮している。
「お寿司は3貫までにしないとむくむわよ。4貫目からはネタだけ食べるのよ。」「塩分の控え方がわからなくなったら、自分で料理してみるといい。」「そんなに体重増やしちゃダメよ!!」等々、決して医療者からは提供できない「経験知」が共有され、医療者のいう事は聞かない患者さんも、仲間からの忠告を素直に受け入れて反省する。
患者たちを一緒にするだけで、放っておいても相互にエンパワメントされていく。
「医療者が患者にパワーを与える」のではなく、「自分たちがチカラを持っていることを自覚し発揮する」ことがエンパワメントであり、医療者の言葉よりもずっと強力に自己管理を推進する。
医療者は奢ってはいけない。
エンパワメントは現代医療にも欠かせない。
多くの労力を要する「上からの監視、指導」だけでは立ち行かないことは明白だ。
複雑化する医療を、より効率的に安全運転するためには、個々の医療者がエンパワメントされ、それぞれの持つチカラを発揮できるようにすることが求められている。
そんな信頼感のある組織づくりを実現するためにどんな場を設定すればよいか、考えていきたい。
大阪大学医学部附属病院 中央クオリティマネジメント部
北村温美