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第21回:ワールドトリガー  ー菊地 龍明ー

「先生、TeamSTEPPSってワールドトリガーみたいで面白いですね」「ん?」
今年1月、医学部3年生の講義でTeamSTEPPSの演習「チームの鎖」を行った直後の休み時間、学生からこう声を掛けられた。
ワールドトリガーというのは、「ジャ〇プ」に連載されるバトルアクション漫画で、異世界からの強大な侵略者に対してチーム戦で対抗し、役割分担をした仲間とコミュニケーションを取りながら、その場の戦況に合わせて臨機応変に戦い方を変えていくプロセスの描写が醍醐味である。
その学生には、「チームの鎖」について4つのコンピテンシー(状況認識、相互支援、リーダーシップ、コミュニケーション)の視点から解説した内容がワールドトリガーに重なったらしい。
 
横浜市立大学では、患者取り違え事故の当事者という歴史的背景から、医学部3年生に9コマ、6年生に7コマの医療安全学講義が行われている。
11年前、医療安全部門の専従医師となった私は、自動的に学生講義も受け持つことになり途方にくれた。
何しろ自分自身が学生時代に医療安全の講義を受けた経験がないので、何を教えたら良いのか想像もつかなかったのだ。
病院の安全管理はやりたいが、学生教育まで面倒見切れないよな…と愚痴を言いながら、初年度は外部の色々な先生のお力を借りながらコマ数を稼ぎ、2年目からは学会や研修会で聞いた話のパクリとアレンジでしのぎ、なんとか自分の言葉で講義ができるまで4年ほどかかった。
 
コロナ禍でZoom講義が続いていたが、数年ぶりに対面講義が再開され、また愚痴を言いながら今年の講義を迎えたが、なぜか学生の反応が良い!
「ワールドトリガー」は若干「?」であったが、「医療安全って体系的な学問になっているのですね」「航空業界のCRMの話が面白かったです。他業界の安全対策を学ぶ機会はありますか?」「TeamSTEPPSをもっと学びたいのですがどこで学ぶことができますか?」「病院の職員研修をどんな感じで行っているのか見学できますか?」と複数の学生から積極的な質問が来るではないか!
 
自分自身を振り返ってみると、患者取り違え事故を麻酔科医として内部で経験し、その後手術部医師として周術期の安全対策を担当し、時代の流れに巻き込まれるような形で一種の使命感で安全の道を進んできた。
その中で学生講義は「できれば手放したい余計な仕事」であったが、今年の学生の反応を見て、ひょっとしたら自分の講義が「トリガー」になって、この学生たちの中から医療安全の道を志す医師が生まれるかもしれないと感じ、愚痴を言うのをやめようと一瞬誓った2024年の幕開けであった。
 
横浜市立大学附属病院 医療の質・安全管理部
菊地龍明