医療安全よもやま話
2024-07-25
ビジネス界で用いられている縦展開と横展開は、医療安全管理者の業務においても有効な手法です。
これらの展開方法を理解し、実践することで、劇的ではありませんが着実に医療機関における医療の質と安全を向上させることができます。
縦展開とは、既存の医療安全マニュアルなどを深化させることで、医療の質や安全性を向上させるアプローチです。
例えば、ある病院で患者誤認が起きた際に、それまでのマニュアルでは曖昧だった確認手順を明確化することや機器による認証を導入するといったことです。
また、新しい手術ロボットを導入し、その結果、手術の成功率が向上したとします。
次に、ロボット支援手術のトレーニングプログラムを改善することで、医療スタッフの技術力を向上させることができます。
また、患者の急変について、従来のコードブルーに加えて、ラピッド・レスポンス・システム(Rapid Response System)を加えることで、急変する可能性のある患者を事前に察知し対処することで、急変による死亡者数を減らすことが期待されます。
一方、横展開とは、既存の成功事例や知識、技術を他の医療機関や部門に適用させることを指します。
この手法は医療以外の分野での改善を参考にすることもできます。
この手法の主な目的は、資源の有効活用と、全体の医療の質や安全性の向上です。
たとえば眼科の視力検査室にある患者用の椅子から転落した際に、視力検査室の椅子だけでなく、中央採血室や診察の待合いにある椅子も点検して改善を図るといったことです。
また、患者を検査台からストレッチャーに移送する際に点滴や気管チューブが引っ張られて抜けたインシデントから、移送時にハドル(中途打合せ)やKYT(危険予知トレーニング)を導入した場合に、病棟や他の部門での移送時のルールの改善も図ることも横展開の考えといえます。
横展開と縦展開は、それぞれ異なる視点から医療の質と安全性の向上を支援する手法です。
私たちはこれらの手法を適切に組み合わせることで、持続的に改善を図ることができます。
もちろん、人員配置やAI機器の導入などのように劇的な効果が期待できるものではありません。
しかし、医療環境が急速に変化する一方で医療安全に関する資源投入に限りがある現状において、横展開と縦展開の理解と実践は有力な手法と言えます。
一つのインシデントから改善を図る際にこれらの手法を使えないかを検討するだけでなく、業務以外の日常生活からも横展開のネタがないか考える事も有用かもしれません。
関西医科大学 医療安全管理センター 副センター長
宮崎 浩彰