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第38回:医療安全管理者の「役」 ー山口(中上) 悦子ー


自己紹介で医療安全管理者だいうと、判で押したように「大変ですね」と言われます。事故対応や気遣いが多いでしょう、と。
安全=事故って……よく考えたら、おかしいですよね。
でも、他の人から見ると、問題や事故があったときに接する職員というイメージが強いのかもしれません。

たしかに、研修で色々習うけれど、医療安全管理者の「役」って何かふわふわしているように思いませんか。
ある日突然、医療安全管理者になれといわれて、目標にできるロールモデルもない。
それまでの仕事(診療や看護や医薬品の管理など)と比べて何をやったらいいのかわからない——そんな人もいらっしゃるのでは?
医療安全管理者の仕事は、なってから自分自身でつくっていくしかないのかもしれませんね。

さて、もし医療安全管理部門を舞台とした演劇のシナリオを書くとして、みなさんは、医療安全管理者をどんな「役」として描きますか?
問題や事故に即座に対応する「警察官」、法令や規則に沿って業務を点検する「監視者」、事故の原因を推理して究明する「探偵」、困っていることを何でも引き受ける「万屋の店員」、不安や心配ごとを聞いてくれる「相談員」などなど……。

私だったら、「保育士」として描きます。
ご存じのように保育士の仕事は、子ども一人一人に合わせた発達支援です。
また、保護者も子どもと共に育つよう支えます。挨拶、声掛け、けんかの仲裁、保護者への連絡……あらゆるコミュニケーションの場面に発達支援のスキルを駆使します。
さらに什器の配置、動線、サイン、文書の作り方や掲示方法を工夫し、子どもたちや保護者と接しない時間にも「まなびとあそび」の環境を整えます。

では、医療安全管理者の仕事は?それは、現場の職員が、患者さんに安全な医療や病院のサービスを届けるにはどうしたらよいか、それぞれの職種や職位や立場で考えながら仕事ができるように支援することです。
「自らできるようになること」が発達です。
医療安全管理者は、職員の発達を支援しているのです。
医療安全研修だけでなく、日々の巡視でのアドバイスや相談を受けるときの会話、ニュースレターのデザインなどにも工夫を盛り込めます。
さらに委員会の進め方、会議室のレイアウト、議案や報告書の作り方でさえも工夫次第で「まなび」の支援に変えることができます。

保育士さんは、「こどもと遊べていいですね」といわれるそうです。
私たちの活動は、例えるなら「半返し縫い」1)です。
表に出ている縫い目しか、他の人の目には映りません。
しかし、その裏側には、折り重なったたくさんの糸のように工夫と努力が隠されている……だから、たとえ職員から見た「縫い目」が「事故」であったとしても、「警察」や「探偵」を演じているときしか接していなくても、その裏に職員の「まなび」と発達を支える糸の重なりがあるのなら、私たちのメッセージは、きっと職員の仕事の中に活きていくと信じています。

そんな職員の「発達支援」のために、あなたなら、どんな役を演じますか?

1)山口(中上) 悦子,ほか. 「病院ボランティアの未来」, ボランティア学研究, 2010, 10 巻, p. 39-77.


国際医療福祉大学大学院/医学部
医療の質・安全学
山口(中上)悦子