医療安全よもやま話
2024-09-25
2001年米国医学研究所 (Institute of Medicine=IOM)の『Crossing the Quality Chasm』報告文書において「医療機関のインシデントへの対応の仕方が、その組織が『学習する組織(learning organization)』に進歩できるかどうかを決めるという考え方の提案がされています。
この中でインシデント(医療有害事象)に対応するにあたって、2つの基本方針、①医療は安全でなければならない②医療は患者さん本位でなければならない――が記載されています。
この考え方を理解しやすい形に落とし込み共有し、各職員が行動することによって、学習する組織に進歩していけると思いますので、本項にてご紹介いたします。
IOMから、1999年『To Err
is Human』、2001年 『Crossing the
Quality Chasm』の報告書を受けて、米国の医療機関が医療事故防止対策に取り組みましたが、2004年に医療過誤や有害事象に関する患者さんとのコミュニケーションの仕方に大きな格差があるという報告が出てきました。
そのため、ハーバード大学の医療関連グループに属する、リスクマネージャーや医師等により対応の在り方について纏めたコンセンサス文書『When Things Go Wrong Responding To Adverse
Event A Consensus Statement of the
Harvard Hospitals』が報告されました。
このコンセンサス文書を、東京大学医療政策人材講座有志により翻訳し『医療事故:真実説明・謝罪マニュアル“本当のことを話して、謝りましょう”』が2006年に「真実説明・謝罪普及プロジェクト」メンバーより発表されました。
この報告書が全国社会保険協会連合会(全社連と略する)の当時の理事長の目に止まり、2008年6月に全社連(当時:社会保険病院グループの本部)の医療安全委員会で「真実説明・謝罪普及プロジェクト」メンバーを加え「医療有害事象・対応指針~真実説明に基づく安全文化のために~」を策定し、同病院グループの職員へ指針に基づく行動を開始しました。
グループ病院の具体的な行動は、各病院の全職員へ『医療有害事象対応指針』を配布し、理事長自ら各院長へ基本方針について丁寧な説明を行いました。
本部主催の、医療安全管理者研修会(病院長・医療安全管理者対象)、医療安全管理者養成研修会、医療コンフリクト・マネジメント研修会を経年的に開催しました。
各病院から多くの職員に参加してもらい、この指針を根付かせる努力を続けました。
その結果、インシデントが発生した際には、基本方針に基づいて、患者・家族・遺族への対応と医療事故に関わった医療者へ支援を実施しました。
2009年から病院グループが改組される2014年3月まで、インシデント発生後に民事訴訟に至るケースの減少にも繋がりました。
この指針には「医療は安全でなければならない」「医療は患者さん本位でなければならない」が基本指針として位置づけました。
そして、情報開示を約束し患者さんとご家族には、何が起きたか知らせるために、正直なコミュニケーションを行う。
それが、患者と医療従事者間の信頼関係を回復させることに繋がるのです。
しかしながら、多くの病院では、インシデント発生後のコミュニケーションにおいて、どのタイミングで、何処の部門、誰が中心になって実施していくのか、また継続的に誰が関わって対応するのか等々の課題が見えてきます。
院内の方針が定まっていない、方針はあるが行動できないなど、まだまだ困っている施設があります。
インシデントに対応するにあたっては、全職員が行動できるように基本方針を分かり易く示し、継続して伝え行動変容に繋げていくこと。
そして、安心して語れる場の設定や遅滞なく患者側と医療者側のコミュニケーションを促進することが、双方にできた溝を埋めることに繋がって行きます。
そのため関係調整や支援ができる組織体制をつくることが有用です。
そして、インシデントに対応したことは、必ず記録に残し後継者が経験から学べる仕組み作りに繋ぐことが大切と言えます。
公益財団法人日本医療機能評価機構 教育研修事業部
遠田 光子