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第32回:国際学会の理事会で学んだ2つのこと ―中島 和江― 

レジリエンス・エンジニアリング理論の提唱者であるエリック・ホルナゲル博士らの呼びかけにより、2012年夏に第1回Resilient Health Care Meetingが、デンマークのミゼルファートにある古城ホテルで開催された。
この会議は3日間のワークショップであり、短い発表と長い討議を原則とする。
世界中からヘルスケアに関係する研究者や実務者が参加し、レジリエンス・エンジニアリング理論の深化、成功/失敗モデルの提唱、安全マネジメントへの実装等について議論を重ねてきた。
私は日本の医療安全の仲間とともに、2019年に第8回目の会議を淡路夢舞台国際会議場で開催する栄誉を得た。

この国際的なネットワークは、2000年に「Resilient Health Care Society」という名称の非営利団体として、スウェーデンにおいて登録を行った。
私は本学会の設立当初から理事として参加し、2024年8月に理事長に選出され、現在1~2か月に1回のペースで理事会を開催している。

この理事会は英語で行われることもあり、出席者の発言内容を理解し、会議を効果的かつ公正性を保って進行させなくてはならないプレッシャーで、毎度のことながらドキドキさせられる。

最初の理事会では「セカンド」という言葉を何度か耳にした。
「二番目」って何の事だろうか。よく聞いてみると「I second that.」と言っている。
「セカンド」が動詞として使われているようだ。
詳しく調べてみると、Robert's Rules of Order(ロバート・ルールズ・オブ・オーダー)と呼ばれる米国の公式会議の作法があり、その中で必要とされている発言であることがわかった。
「セカンド」を動詞として使うなんて何十年も知らなかった。

この議事進行規則では、4つの権利(多数者の権利、少数者の権利、個人の権利、不在者の権利)を守り、4つの原則(一事一件の原則、一事不再議の原則、多数決の原則、定足数の原則)に従うことになっている。
この規則は私達が病院や学会等の委員会で無意識に行っているものに近い。
本規則のユニークな点は、会議中に誰でも議題を提起(動議、motion)することができ、その議題を議論するに値するものと考える者は、「I second that(それを支持します)」と発言する。
誰か一人でも支持者がいれば、その議題を会議での議論の俎上に載せるが、支持者がいない場合にはその議題は採択されない。

英語での議事進行及び意思決定に加えて難しいのは、理事会の日程調整である。
理事は地域、ジェンダー、専門性等の多様性とバランスを考えて選出されている。
現在のメンバーは、スウェーデン、ノルウェー、ニュージーランド、アメリカ合衆国、ブラジル、日本である。
時差を考慮すると、オンライン会議の開催可能な時刻は、日本時間の午前5時から午前8時の3時間くらいしかない。
それに加えて、メンバーは集中治療医や救急医、世界中を飛び回っている研究者等で、それぞれに多忙を極めている。
理事会の定足数は満たしていても、いつも特定のメンバーが出席しにくい状況が生じがちである。
この問題の解決法を皆に問いかけてみたところ、「rotating inconvenience(順に不便を受け入れよう)」ということになった。
これは、変化と制約のある環境に適応する、すなわちレジリエンスを発揮するための組織の知恵と言える。
ある意味では大発見かもしれない。

2025年の学術集会は10月にブラジルのカネラ市で、Resilience Engineering Associationと合同で開催される。
専門領域、価値観、税制上の扱い等の異なる2つの学会のはじめての交流である。
新たな学びがあることを期待したい。


大阪大学医学部附属病院 中央クオリティマネジメント部  
中島 和江