医療安全よもやま話
2025-04-25
2011年度から大学病院で医療安全専従医師として勤務している。
趣味の延長で続けている剣道(七段)、空手(四段)と医療安全の実務に、『間』や『呼吸』といった共通点があることに気づかされる。
武道の目的は、「相手をやっつけること」ではなく、「自分自身の成長と他者との“和”の形成」であると考える。
剣道の昇段審査では、相手とのやり取りの中で、自分のみならず相手も、そして周囲も納得できる技が求められる。
たとえ自分の竹刀が相手に先に当たっても、自分勝手に出した技は評価されない。
「納得」のために必要なことが「間」と「呼吸」である。鬼一法眼の言葉に「五五十 二八十 一九十 以是可和」がある。相手が押せば引き、引けば押し、“和”の重要性を教えている。
相手の呼吸や彼我の間を計り、“和”の状態で技を出し、相手に心から「参った」と思わせることが重要である。
だからこそ、小柄な高齢者が、若く体力のある相手に勝ち得るのである。
私自身も、そのように打たれた相手には、「またぜひ稽古をお願いしたい」との念を抱く。
私は剣道七段の審査に2回落ちている。
失敗した2回は、「相手に打たれないように、自分が打つ」ことを意識し過ぎていた。
師範から「自分勝手はダメだ」とご指導いただき、相手を過度に怖がらず、相手の出方に応じ柔軟に対応することを心掛け、3回目でようやく合格することができた。
医療安全の実務でも、「安全上の正論」を相手にぶつけたくなる場面がある。
しかし、どれほど正しいことを並べ立てても、相手に聞く気がなければまったく響かず、かえって反感を持たれてしまう。
相手とのやり取りの中で、相手が困っていて、何とかしたいと感じている時にこそ、「間」を外さずに話をすることで、「また一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるのではないか。
患者や家族に対しても、「こちらの言いたいこと」ではなく「相手が今求めていること」を鋭敏に観取し、柔軟に対応することが求められる。
相手を観る目や柔軟な対応力は、日々の準備や研鑽から生まれる。
我々医療安全実務者は、自身の知識や技量を高めるための研鑽を怠らず、いざ現場で対応する際にはそれを見せることなく、目の前の相手の思いを感じ取り、間と呼吸を計って「技」を出すことが求められる。
武道も医療安全も、相手がいてこそ成り立つ。
「自分勝手はダメだ」、師匠の言葉を胸に、今日も朝練の後、現場で対話を行っている。