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第33回:医療界から学んだ品質不正に対する教訓 ー棟近 雅彦ー

私が医療の質・安全のことを考えるようになったのは、1999年から2000年にかけて、重大な医療事故が多発したのがきっかけである。
医療関係者から、医療界にも質マネジメントの取り組みを入れたいので、手伝ってくださいといわれ、それ以降、病院との共同研究を進めることになった。

病院に行き始めるようになってすぐに、病院にも産業界では常識となっていたQMS(質マネジメントシステム:質の保証と改善を行うための仕組み)を入れたいと思った。
産業界でQMSを確立するまでには30年かかっていたので、30年で医療のQMSモデルを作ろうと考えた。


それから25年が経った。
その間医療界では、官民あげて様々な改革を行ってきた。
医療安全推進室はどこの病院でも設置され、インシデントレポートを書いて改善に活用するのは当たり前になった。
もちろん医療事故が皆無になったわけではないが、相当改善されたといえるだろう。

一方、QMSの先輩であった産業界の方は、近年品質不正が多発し、世間を騒がしている。
マスコミにも相当バッシングされている。
この状況は、25年前の医療界の状況によく似ていると思う。
産業界は、品質不正を防止すべく、医療界が行ってきた大改革を求められているのである。
医療事故は過失によるものが多く、品質不正は故意によるものが多いので、相当性格の異なるものであるが、医療界で行ってきた改革に学べることは多い。

ここ数年、品質不正を起こした企業の調査委員会に、弁護士らとともに参加することが何回かあった。
その経験から、産業界には品質不正を起こすリスクが常に存在することを考えることが、不正防止のために最も大切なことであることを学んだ。
リスクが常に存在するのは、
・利潤を追求する活動を競争環境の中で行っている
・人はプレッシャーに対して弱い
からである。
利益を求めなければ、また競争をしていなければ不正は起こらない。
そして、そのようなプレッシャーに人は弱いのである。
この要因は、なくすことはできない。
残念ながら多くの企業はこれに気づいておらず、「うちでは起こらない(と考えたい)」「起こると仮定して防止策を考えたくない」「起きたら隠しておきたい」といったように、タブー視しているところがある。

医療界で、「医療事故は起こらない」「起きても隠せる」と思っている人は、現在ではほとんどいないであろう。
事故をなくす努力は必要であるが、一定の確率で起こってしまうということを認めたので、この25年間の改革が行われてきたのだと思う。
産業界にも、これと同じ精神改革が必要である。
QMSを確立することは重要と思い、現在も継続しているのであるが、それ以前にこの精神改革が最も大切であるということを、あらためて学ばせてもらった。



早稲田大学理工学術院 
棟近 雅彦