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第36回:日本の医療者の成果:世界で注目される日本の“医療安全情報・医療事故情報収集等事業” ー後 信ー

私は2005年に現在の(公財)日本医療機能評価機構に着任し、当時は実現可能性すら不透明であった、国の法令に基づいて医療事故報告を行う事業(医療事故情報収集等事業、”医療安全情報”を発信している事業です)を担当することになりました。

医療事故やヒヤリ・ハットでも外部に報告することは、再発防止が目的と説明されても、嫌なことだと思います。
当時、法人化や初期臨床研修の改革が大きな混乱を生じていた大学病院から、“(ただでさえ大変なのに、さらにこんな報告もしなければならないとは)痩せ馬に鞭打たれる思いだ”、というご意見をいただきました。
元々好感されるはずのない新制度を担当しているとわかっていましたので、特に反論する気にもなれませんでした。
2005年4月の第一回の記者会見では、病院名や具体的な情報の公表を迫る記者の方に、医療安全を目的とした制度なのでそれはしないことを繰り返し説明しましたが、問題を起こした病院、医師に通院している患者を守るために公表すべきという、懲罰的な制度を想定して追求する記者の方は結局納得せず、憤懣やるかたない表情でした。
苦労はしましたが、そのような質問や反応は予想していましたので、同様の説明を繰り返すことで創設当初の数年間を乗り切ることができました。

その間に、”痩せ馬に鞭打つ”と意見された先生の病院も含め、大学病院や国立病院の皆様が中心となり、事例の報告が増えていったことはとてもありがたいことでした。
その後、事業は毎月医療安全情報を発信するなど発展、定着して、日本の医療安全のためのインフラになっていると思います。
報告してくださった皆様、事業を責任追求ではなく再発のために活用していくという考え方にご理解をいただいた皆様の叡智に、敬意を表するとともに、深く感謝申し上げます。

医療事故情報収集等事業の成功は、我が国における報告・学習システムの発展のための先導役になったと思います。
2009年には、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の事例受付が開始となり、また、重症脳性麻痺を対象とした、産科医療補償制度も開始されました。
そして2023年には、歯科診療所を対象とした、歯科ヒヤリ・ハット事例収集分析事業が開始となりました。

2015年に開始された医療事故調査制度を含めると、広い意味で我が国では5つの報告・学習システムが稼働していることとなり、特に産科医療補償制度は無過失補償を併せ持つ独特な制度であり、このような国は世界にもないと思っています。

WHO(世界保健機関)は、2021年の総会で、患者安全のための10年計画である、Global Patient Safety Action Plan 2021-2030をWHO総会において採択し、その進捗を各年で総会に報告することを求めました。
2023年に公表された中間報告書には、タイの報告・学習制度創設の経験が記載されていますが、その中で、“2016年にWHO専門家会合において日本から啓発を受けて、タイの第三者機関において限定的な病院の参加を得て、報告、学習システムを開始した”ことが記載されています。
実際に私はタイの担当者から報告と学習制度創設の相談を受けましたので、このことは事実であり、日本の医療者や制度に係る皆様の成果であると申し上げます。
また、同じ会議に参加した、オマーン保健省も同様に国に報告する報告制度を創設されました。
これも日本の成果です。
事業に参加して事例を報告してこられた皆様には、毎日のお仕事を通じて、世界レベルで好影響を与えてこられましたことに、お礼とお祝いを申し上げます。

最後に、お時間があれば、英国イングランドの医療事故調査機関であるHSSIB (Healthcare Services Safety Investigation Body)のホームページにも、日本の医療者の取り組みが3回シリーズで掲載されていますので、ご覧いただければと思います。
これは現在も労働党政権化で進行中である、英国NHS(National Health Service)の改革のために必要な情報として執筆のご依頼を受けたものです。
https://www.hssib.org.uk/news-events-blog/patient-safety-in-japan-national-reporting-and-learning-system/



(公財)日本医療機能評価機構
九州大学病院医療安全管理部
後 信