医療安全よもやま話

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第49回:安全で質の高い医療システムは、良い音楽に似ている?-つながりが奏でる協調のうねり-  ー徳永 あゆみー

この数年、娘のピアノレッスンやコンクールに付き添うことが増える中で、和声、フレーズのあり方などを考えながら聴くようになりました。

娘いわく「重要かつ、難しい」のがバッハだそうです。
たった10本の指で、3声、4声、あるいはそれ以上の声部を、それぞれ独立させながら、しかも絶妙なバランスで組み合わせて奏でる。
この訓練を重ねることで、ショパンなど後世の作曲家の音楽も、より立体的に捉えられるようになると娘は言います。

私は、単に技術的に優れた、間違いのない音よりも、それぞれの声部が生き生きと動き、その相互作用によって生まれる大きな音楽のうねりに、むしろ感動を覚えます。
これは私たちが理想とする日々の医療システムのありようと少し似ているのではないかと感じるようになりました。

毎日いろいろな事象が起こる医療の現場では、個人の力がいかに優れていようと、それだけでは対応しきれません。
それぞれが自律的に動き、専門性を尊重し合いながら、協調する。
院内の各部署や職種が有機的につながり、組織として状況に応じてしなやかに機能し続ける。
そのような姿を、私は美しいと感じます。

医療の質・安全領域に関わる中で、Safety-I、Safety-II、そしてレジリエント・ヘルスケアの考え方を学ばせていただき、これまで一人の内科医として考えてきたPerson-centered careの視点が、私の中で少しずつつながってきました。

慢性疾患を有する患者さんは、治療と生活の間にあるギャップに苦しむことがあります。
孤独感の中で、日々の治療を自分の生活の中で続けていかなければなりません。
診察室でできることには限界があり、一生懸命に患者さんと向き合っても、その先にある日常生活に、なかなか手が届かない。
そのジレンマをなんとかしたいと思い、仲間とともに、街の保険薬局で患者交流イベント「薬局ピア・サポートの会」を細々と始めています。
患者さん同士が経験を語り、病院と薬局の医療者も混じり合って、語り、聴き合う場です。

この会に参加していて気づかされるのは、学ぶのは患者さんだけではないということです。
ある回で、私自身が膝の手術を受けた母の痛みについて話したところ、患者さんから「そんなん痛いの当たり前、受け入れい!数年後にはなんとかなる」という言葉をいただきました。
診察室で語られる医学的な説明よりも、ずっと腑に落ちる一言。
医療者もまた、この場では一つの声部にすぎない。
そのことを、身をもって教えられました。

日々の医療安全業務でも、「人、部署、情報をつなぐ」ことを一つのモットーにしています。
薬局での取り組みもまだ小さな一歩を踏み出したばかりですが、少しずつ実践を重ね、医療と生活という異なるシステムの狭間を、少しでも橋渡しできればと考えています。

良い音楽では、それぞれの声部が自らの旋律を奏でながら、互いの音を聴き、影響し合うことで、楽譜に書かれた以上のものが立ち上がってくるように思います。
安全で質の高い医療も、これと少し似ているのかもしれません。

最近はピアノの音を聴きながら、そんなことを考えています。



関西医科大学
医療安全管理センター 
徳永あゆみ